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日本グリーフ専門士協会 ブログ

地震災害で安心するために知っておきたいこと

 
昨晩は熊本のグループホームで宿泊していました。
  
ホームは大変な状態になりましたが、
夜勤職員の皆さんの冷静な対応で、
利用者の皆さんは落ち着いた夜を過ごされていました。
今回はその中で気づいたことを少し綴っておきます。
  
喪失体験に心構えができている人はほとんどいません。
   
多くの人にとって、
死は慣れ親しんだ体験ではなく、
いつであっても晴天の霹靂の体験です。
  
人は老いる、人は病む、人は死ぬ、
当たり前のことではありますが、
目の前の現実は永遠に続くかのように誤解するのは当然です。
  
この晴天の霹靂の感覚は、死別にとどまらず、
突然の地震、解雇、怪我、離婚、失恋など、
さまざまな喪失体験にいえることでしょう。
  
ところが現実を受け入れられず、
事実を否定したり、夢でないかと思ったり、
あまりにショックな場合は、幻覚をみたりすることがあります。
  
そんなとき人は、
自分の今の精神状態は普通ではないと感じます。
 
喪失の事実を受け入れられない。
周囲の対応や、亡くなった人への怒りが沸き上がることも……。
  
しかし、それらの気持ちは普通であり、
当たり前の状態であり、
決しておかしくありません。
 
現実を受け入れるためには
どんなことが大切でしょう。
 
それには二つのポイントがあります。
 
一つは、
自分の居場所を知っていること。
 
見たことのない場所に、
突然降り立ったとすれば、
大きな不安がよぎります。
  
それは自分がどこにいるのかわからない、
コントロール感を失った状態ともいえます。
  
まず何が起きているのかに気づくこと、
自分の位置(状態)に気づくことが、
安心への第一歩です。
    
今の混乱した心理状態は、
当たり前であると認めることからです。
 
喪失を経験した初期は、誰もが混乱します。
大切な人の死を突きつけられて、
はい、わかりました。
と簡単に受け入れられる人はいません。
    
混乱は自分ではどうにもならないと思われる複数の出来事が
一挙に降りかかる時に起こる反応です。
   
大切なものを失ったことをまともに理解すれば、
自分の気持ちがもたないからこそ、
一時的な混乱状態を引き起こし、
事実を否定しようとする反応が起きるのです。
それは自分の精神を守るために元来備わっている防衛反応ともいえます。
  
その中で、喪失の悲嘆(グリーフ)を抱えた方が
大切な人やモノを失ったときに起こりうる症状や、
一連のプロセスを知ることは、
自らを安心させる手立てになりえます。
  
もう一つは、自分の向かう先がわかること。
  
先がわからなければ、
漠然とした不安がよぎるのは当然です。
 
グリーフの感情は、哀しみという複雑な感情を中心に、
渦を巻くように
混乱、否認、怒り、抑うつ、諦観(受容)、転換、再生と
スパイラルを描きながら進んで行きます。
必ずしも順番ではありませんが、
このような大きな流れの中で変化を繰り返していきます。
次に起きる可能性がある感情や状態を知っていることも役にたちます。
      
震災でいえば、
自分たちはこれからどうなるのか、
家にはいつごろ戻れるのか、
普通に生活ができるようになる目処、
新幹線、飛行の普及の予定などが示されることも一つです。
  
先のことがある程度明確になれば、
手元におにぎりが一個しかなくても、
今が極めてつらい状況であっても、
小さな安心を手にすることができます。
  
繰り返しになりますが、   
混乱期には言葉が十分届かないことがあります。  
その相手の状態を知った上で、
周囲の人は相手の混乱にアドバイスするのではなく、
ただ不安な気持ちに寄り添うことが大切です。
 
大丈夫ですよ。
安心して。
俺にまかせておけ。
 
そんな言葉だけでも人は安心を得ていきます。
深夜に騒然となったグループホームの認知症の皆さんは、
優しくも自信ある言葉を重ねていくことで、
安心を取り戻し、
穏やかに一夜を過ごされていました。
  
自分自身でできることの一つは、
冷静に情報を集めた上で、
いま起きている感情は当たり前だと理解すること。
そして不安な気持ちを遠慮なく身近な人に語ることです。
  
支援者は具体的にはアドバイスする以上に、
ただ近くにいるだけで意味があります。
どんなことをいうかということよりも、 
不安な気持ちを一緒に感じる、
共有することから始めるのが大切です。
 

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井手 敏郎(いで としろう)

井手 敏郎(いで としろう)

日本グリーフ専門士協会の代表理事。 全国各地で現場で使える実践的なグリーフケアの技術を教える講義を行っている。 アドラー心理学やユングの分析心理学、フロイトの精神分析などの他、国内外のコーチング、カウンセリングやヒプノセラピーなどについても学んでいる。現在はカルフォルニア臨床心理大学院で臨床心理の研究を行う。

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