日本グリーフ専門士協会の井手敏郎です。

悲嘆のケアを考えるとき、
男女の違いを無視することはできません。

子供が亡くなると、夫婦の中がこじれ、
そのまま離婚を余儀なくされるケースが少なくありません。

考えたくないことではありますが、
夫婦に亀裂が生じるパターンを知っておくことは、
比較的多い悲嘆支援のケースのため非常に大切です。

離婚へ向かう典型的なパターンとはなんでしょうか。

子供の死後、夫婦が分かり合えなくなるの理由の一つは、
お互いの「グリーフのステージ」や「哀しみの癒し方」
がまったく異なっている現実を見落としているというものです。

特に日本人は、周りに迷惑をかけないことや、
何かあっても取り乱さないことを「美徳」としています。

かりに大きな問題があっても冷静な対応をすることで、
まわりに評価されることがあります。
少なくても泣き叫ぶことをよしとしない文化でしょう。

男性は家族を守るのが自分の役割と考え、
比較的早い段階で会社に復帰することが多く、
これまでと変わらず仕事と向き合うことになります。

いつまでも哀しみを引きずったままでは、
いけないと感じるからでしょう。

ある男性は、
子供の遺品をいつまでも眺めて落ち込む奥さんに、
「そんなものを捨てないといつまでも苦しいだけだ」
といって捨てようとしました。

その言葉に奥さんは、
「なんて心がない冷たい人だろう」
「こんな人とはもう一緒にいたくない」
と感じたといいます。

もちろん夫も子供を失った大きな哀しみは当然抱えていました。
しかし、それを乗り越えるために、
亡くなった息子さんのことを忘れるべく、
あえて仕事に没頭したのでした。

自分はそうやって息子の死を乗り越えようとしている。
妻がいつまでも息子の遺品を眺めていては、
哀しみから抜け出せないと考えたのです。

しかし奥さんは、
病気で亡くなった息子をいつまでも忘れたくはありませんでした。
もう息子が戻ってこないことは分かっていても、
彼の残したグローブやバットを抱えたり、眺めることで泣きはらしました。

それは彼女にとって息子さんとほんの少しでも繋がりを感じる、
必要な時間だったのです。

いつしか妻は息子を忘れたように仕事に打ち込む夫が許せなくなりました。
彼が仕事に打ち込むことで痛みを回避しようと
必死になっていたことを理解出来なかったのです。

その後二人は別れることになりました。

男性と女性では悲嘆との向き合い方が異なります。
日本グリーフ専門士協会では、死別をした場合、
「混乱」「否認」「怒り」「抑うつ」「諦観」「転換」「再生」
という大きな流れがあると考えています。

それらは必ずしても順番ではありませんが、
スパイラルを描きながら、何度もそのプロセスをくぐり抜け、
やがて再生へ向かいます。

悲嘆においては、早い段階で「転換」「再生」を迎える人もいれば、
何年経っても「怒り」の段階から抜け出せないという人もいます。

喪失体験には、夫婦、家族でも様々な段階があることを知り、
お互いがそれぞれのやり方で心を癒そうとしていることを認め合うことで、
哀しい事実を共に乗り越えていくことができるのです。

繰り返しお伝えしたいのは、
癒し方と癒しの期間、
グリーフにおけるステージは、
親子、夫婦でまったく異なるという理解です。

表面的には違うように見えても、
お互い深い哀しみの中にあることを正しく理解出来れば、
かける言葉や態度も変わってくるはずです。

日本グリーフ専門士協会
井手 敏郎

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井手 敏郎(いで としろう)

井手 敏郎(いで としろう)

日本グリーフ専門士協会の代表理事。全国各地で現場で使える実践的なグリーフケアの技術を教える講義を行っている。アドラー心理学やユングの分析心理学、フロイトの精神分析などの他、国内外のコーチング、カウンセリングやヒプノセラピーなどについても学んでいる。現在はカルフォルニア臨床心理大学院で臨床心理の研究を行う。