グリーフに対してのありがちな誤解

日本グリーフ専門士協会の
野村です。
大切な人との繋がりや存在を失うと、心が不安定な状態になります。
どんな人であれ、自分にとって重要な存在が失われるというのは辛いものですよね。
それまで「普通にあった関係」が無くなる。そんな出来事が起こった時、回りにいる人たちとの関係がとても大切になってきます。
ですが、
グリーフという哀しみの状態において、誤解をされてしまうことがあります。哀しみという状態はとても複雑です。人によって「どのように捉えるか」が変わってきます。
今回はグリーフという状態に対して、ありがちな誤解と真実について少し見ていきたいと思います。
グリーフに対する誤解 その1:
哀しみの感情は「できるだけ見ないようにする」ことで早く治まる
私たちは辛そうにしている人をみると、なんとか声をかけたくなります。
「大丈夫ですよ」
「なんとかなりますよ」
「いつまでもそんな状態だとよくないですよ」
こういった言葉はグリーフを抱えている人の哀しみをより強くしてしまう事があります。
私たちは「その人に良くなって欲しい」という思いでそのことを伝えているのですが、実際には逆に作用してしまうという事が起こります。
こういった言葉をかけるのは「哀しみを感じ続ける事は良くない」といった心理的な背景があるからかもしれません。
グリーフに対する誤解 その2:
哀しみの中では「強く」あらなければいけない
これはグリーフを感じている本人が思い込んでいるケースが多いのですが、「こんな時こそ、私は強くがんばらなきゃ」と考えることがあります。
また周りの人も「あなたがしっかりしないと」と声をかけることもあるでしょう。
ですが、こういった思い込みは本当の感情を抑え込んでしまいます。それで頑張れているうちはいいのですが、心の中では哀しみの感情が大きくなっているというケースを多く見てきました。
グリーフに対する誤解 その3:
涙が出ない=悲しんでいない
「大切な人を失った時に涙がでなかったんです」
そういった事を話される方はたくさんいます。
「実際には自分でも驚くほど冷静でした。私は冷たい人間なんでしょうか?」
そんな風に打ち明けてくれる方も多くいます。
「悲しいと涙がでる」と私たちは考えています。なので、自分自身の冷静な反応に気づいて「私は冷たい人間なんでしょうか?」という疑問が湧いてくるのだと思います。
グリーフに対する誤解 その4:
どれだけ深いグリーフでも1年も経てば良くなる
「もうあれから何年も経っていたのに、まだ思い出すと辛いんです」
「いつまでこんな状態が続くのかと思うと・・・」
という事を話される方もいます。
どれだけショックな出来事があっても、時間が経てば楽になる。一般的にはそんな風に考えられていますが、人間の心はそんなにシンプルではありません。
たしかに時間が経つことで記憶は薄れますが、哀しみ自体が消える訳ではないといえるかもしれません。例えばトラウマなどもそうですが、大きく感情の動いたイベントは何年たっても記憶に残っていたりします。
・・・それではこのような誤解の真実は何なのでしょうか?
これからお伝えすることは必ずしも全てのケースに当てはまらないかもしれませんが、「気づく」だけでとても楽になるという人をたくさん見てきました。
グリーフという状態に対する真実を見てみましょう。
グリーフに関する真実 その1:
本当の意味でグリーフを解放するなら、その感情を見つめるプロセスが必要
哀しみの感情は「耐え続ける」ことで解放することはできません。
ガマンし続けても、それが癒やしに繋がるとはいえないのです。
また起きてくる感情(グリーフ)を無視し続ける事で、逆にグリーフによる症状が長引くというケースも多く見られています。
中には4年以上も前の出来事に苦しみ続けて来た方もいました。
その人は何年間も「思い出すたび」辛いという感情に襲われてきたそうです。彼女も適切なグリーフケアを受けることで、とても楽になったといってくれました。気づくことで表情が変わり、スッキリしたような雰囲気に変わっていきました。
心の内側にある哀しみの感情に「気づく」ということだけでも、人は変われるのだと私も気付かされました。
グリーフに関する真実 その2:
泣くことは悪いことでもなければ「弱さ」を意味するものでもない
「こんな時こそ、強くなければいけない」と思うのは、その状況に対応する上で大切なことだと思います。
心が弱っている状態では、何もかもやる気が起きなくなってしまいます。
そういった風に考えることは本当に尊敬しますし、素晴らしいと思います。
ですが、
「弱さ」は見せても良いと思います。
悲しくて泣きたくなるのは普通の反応です。泣いてもいいんです。だってそれは人間にとって普通の反応なんですから。
起きてくる感情自体には良いも悪いもありません。
たとえ「恐怖」や「寂しさ」の感情を感じていてもそれ自体が悪いことではありません。人間の本能が持っている自然な反応です。
そして、どんな風に感じているのかを正直に表すことはグリーフの癒やしにも繋がります。
「私は強く無くてはならない」と思う必要はありません。
素直に感情を出すことで、グリーフを抱えた本人、またそのご家族にとっても癒やしに繋がると私は感じています。
グリーフに関する真実 その3:
涙を出さない「哀しみ」の状態もある
涙がでない=悲しんでいない、という思い込みの話をしましたが、泣くことだけが悲しみの感情を表す方法ではありません。
泣いていないからといって、その方が傷ついていない訳では決してありません。
またこれはグリーフ専門士としてケアをする側の私たちにとっても同様です。哀しみにくれている人を見て、感情に寄り添ってあげたら、ケアしている私たちも「哀しみ」を感じます。
グリーフケアを行う側の私たちも哀しみを内側に抑え込んでしまうことがあります。そんな時、涙が出ていないからといってそのままにするのはよくありません。
どんな哀しみの感情にもきちんと対応してあげる必要があります。
グリーフに関する真実 その4:
グリーフに「期限」はない
グリーフという状態は「ある一定の期間」がすぎれば解放されるというものではありません。
実際の所、グリーフは人によってそれぞれ解放までの時間は異なります。人によっては数週間、また数ヶ月。長いときには数年、もっとかかる人もいるでしょう。
時間がかかること自体には「良い」も「悪い」もありません。
その感情(哀しみ)を感じ続けたい、という人もいます。グリーフをケアする側の人間が改善できるように無理強いする必要もありません。
正直な所、本人が変化を望んでいなければ周りの人間がムリになんとかしてあげることはできないのです。すべてご本人がどのように感じたいのかだと思います。
とはいえ、ずっと哀しみを感じたままでいなければならないということはもちろんありません。本人が望みさえすれば、グリーフによる辛さを感じる期間を短くすることもできるのです。
グリーフ・カウンセリングだったり、認知療法などを受けることで少しずつ解放していくことができます。
感情は「悪いもの」ではない
私はグリーフを感じている人が「感じている感情」は悪いことではないんですよ、と伝えることを大切にしています。
その人が望んでいる状態に寄り添うということをします。
一般的に大切な人を失った後、周りにいる人は「なんとかしてあげたい」と考えます。ですが、実際の所は本人がどのようにありたいか、それを肯定してあげるということしかできません。
言い換えると、それが「寄り添う」ということなんだと私は思います。
私たちグリーフ専門士の関わり方には色々な方法がありますが、「どう在りたいか」はご本人が気づいています(意識していないケースもありますが)。
グリーフセラピーやグリーフ・カウンセリングの方法はとても有効ですが、そういった技術の前にケアする側の思考が大切なんだと思います。
ケアする側の在り方は相手に伝わります。
私たちグリーフに関わる人間は、相手が何を求めているのかに気づいてあげる能力を高めていくことが必要なのかもしれませんね。
日本グリーフ専門士協会
野村優(のむらゆう)

野村 優(のむら ゆう)
