こんにちは、日本グリーフ専門士協会の前川美幸です。

今回は、「人生を支える8つの繋がり」というテーマで、数回に分け取り上げます。

喪失には、様々な断絶がある

 

死別による喪失悲嘆は、いわば大切な存在とのつながりが観戦に絶たれてしまった「断絶感」にうちひしがれている状態と言えます。そして重要なことは、「個人とのつながり」だけでなく、それに付随するものとも、断絶が起こっているということです。

日本グリーフ専門士協会では、具体的にどういった断絶が死別により起きてしまうのかについて、8つの側面から検証しています。その8つとは、「社会」「友人」「家族」「過去」「自然」「思想」「故人」「未来」における断絶です。

誰もが様々なものに多面的に支えられ、自分という存在を維持しており、そのうちのどれか一つが欠けても、脆く崩壊する危うさを秘めています。大切な誰かを失うと、その死別喪失に付随し、家族や友人、社会その他、それ以外の「生きていく上での欠かせないモノ」との繋がりが絶たれ、激しい痛みや苦悩が生じます。それは今、支援者の立場にいる「私」たちも同じです。

支援する側もされる側も「同じ人間としての痛み」は、なにひとつ変わりません。そのような同列の視点や感覚を持って、対応することが耐えきれない悲嘆に喘ぐ人にとって、大きな癒しとなります。では、喪失によって生じる「断絶感」とはどのようなものか、ひとつずつとりあげていきましょう。

 

社会との繋がり

まず「社会」との繋がりについて解説します。大切な存在である伴侶、子供、親、それらのうちの誰をどの時点で亡くしても、私達は想像を絶する喪失感に苛まれます。これまでと変わらない日常生活を送ることができなくなり、会社や学校、あるいは地域のコミュニティに足を運ぶことすら、とても難しくなります。

高齢でありながらも、現役開業医として活躍していた男性が、その後継者として期待していた息子さんを突如、交通事故で亡くした例がありました。いつか、自分の医院を継いでもらいたいと楽しみにしていた医学生の息子が、突然、もうこの世に存在しないーこれまで「息子に継がせたい」の一心で、努力してきた長年の歴史が水の泡になったように感じたそうです。

「いつか息子に!」という「希望」が突如、「絶望」へと変わり果て、無気力な毎日が続くうちに、だんだん抑うつ的になっていったといいます。「息子さえいてくれたなら、今頃はとうに引退していたのに」「こんな状態では医師として患者の前に立てない」などといった想いに駆られ、始終、涙ぐんでしまうことが多くなりました。

結局、長年にわたり自らが運営してきた医院を休業せざるを得なくなり、失意の中で体力や気力はますます低下していきました。そして、ついには自身が要介護状態となりました。

医師という社会的な立場を失ったことをきっかけに、他人と接することを避け、世間からは身を遠ざけるばかりとなり、日に日に心身の機能がさらに低下していきました。

以前は患者がそうならないよう支える側にあった人が、大切な人との死別をキッカケに支援を受ける側へと立場が変わる。そんな例は実に少なくないのです。

 

友人との繋がり

次に「友人」との繋がりについては、伴侶を亡くされた方を例にあげます。

夫婦でテニスや登山サークルなどに参加していた場合、サークル仲間の集いに参加するたびに、亡き伴侶との楽しかった思い出が鮮明に思い出され、強い孤独感を味わいます。

他の夫婦が仲睦まじく支えあう姿に、「なぜ自分だけが、このような境遇に陥らねばならないのか!?」と感じ、どうにもいたたまれなくなる。そんなことから、集まりに参加することが大きな苦痛になり、だんだんと足が遠のき疎遠になってしまうことも多いです。

そのような場合、周囲が何とか励まそうと色々な声かけをすることがかえって本人を傷つけ、ますます引きこもらせてしまうという例も、残念ながらあります。

とくにそのサークルの中に、すでに伴侶を亡くされた方がある場合は、注意が必要です。その方が本人の痛みにピッタリと寄り添ってくれるならいいのですが、それとは真逆の仕打ちをしてしまうことも多いからです。

「一時はつらかったけど、今では一人のほうが楽」「あなたはまだ若いのだから再婚を考えたら?」等、本人に対する配慮にあまりに欠けた助言を、そのような<先輩>が放ってしまうことが、往々にしてあります。

 

そのような助言がなぜ、伴侶を亡くした本人の心を深く傷つけるのでしょうか?

 

それは、亡くしたばかりの時点ではとくに、その相手に対する想いは深く複雑であるからです。<故人>として扱うのは周囲だけで、当事者である本人にとっては、今なお、まだ生きているとしか思えないことがほとんどです。

同じ体験をしたから誰もが同じ経過をたどるとは限らず、その想いの深さや強さが、死ぬまで変わらない人もあります。死してなお深まる愛もあるのですから、「亡くなったと同時に夫婦関係が終結する」という偏った認識を押し付けることは極めてナンセンスです。

失ってみて初めて、相手の存在の大きさに気づくということがあります。それは、その立場に立ってみないと毛頭わからない心境の変化であるため、故人に対する思慕を本人なりに育みたいと願っても、周囲の無理解がそれを阻んでしまうことがあります。

そして、様々な場所で色々な人から、本人にとっては大変辛い言葉を浴びる羽目になり、人と会うのが次第に負担になっていきます。

「誰も痛みをわかってもらえない」「どこにいっても、苦悩に寄り添ってくれる人がない」ことが痛感されるばかりで、どこにも居場所を感じられず、安心できずに苦しむのです。

そのような周囲の、悪気はないながらも不適切な関わりがきっかけとなり、他人に対する不信感が募り、サークル活動のみならず、一切の外出を避けたり、他人との対話を拒否する場合もあります。

 

家族との繋がり

つぎに「家族」についてです。長年連れ添った伴侶を亡くされた場合を例にします。

妻が亡くなった場合、子どもたちが父である自分の元にほとんど足を向け亡くなったという悩みは、残念ながら少なくありません。父親との関わりが母親に比べ疎遠である家庭が多いからでしょう。

特に元々の親子関係があまり深くない、あるいは良くはなかった場合などにおいては、そのつなぎ目となる役割を果たしていた配偶者の死去により、その親子関係が断絶するということも見られます。

家庭内のことはすべて妻にまかせ、何か不都合があると妻に責任を負わせるような夫婦関係が、ひと昔前の日本では一般的でした。そのような夫婦関係であった場合はとくに、妻に先立たれた後の夫の、子ども達との意思の疎通は、にわかに困難となります。

妻を失ったショックから非常に取り乱し、精神的に荒廃をきたした挙句、八つ当たり的に子どもらを責める言動に走ってしまうこともあるでしょう。

これまでは妻に向けることが多かったある種の「甘え」が、その受け手を失ったことで不満の矛先を子どもに向けてしまうケースもあります。また、だれにも辛さをぶつけられずに鬱積し、お酒に溺れたり、ギャンブルに走ってしまう人もあります。

そのような態度に父親に対する信頼をすっかり失ってしまった子どもが、近い将来、父の施設介護を考えたりするケースが後を絶たない現実もよく目にします。母親によってつながれていた家族の「絆」が、その死去により、危機に直面してしまうのです。

このような悲しい結末は、子供を亡くした夫婦の間にも見られます。たとえば、不慮の事故で子供を亡くした場合、子どもの側に過失が無くても、「そんな時間になぜ一人でその現場へと向かわせたのか」という親としての悔いが深く残ります。

まして子ども自身の不注意が事故の背景にあった場合には、「なぜもっと注意するよう言葉をかけてやらなかったのか」という激しい自責の念に駆られます。とりわけ子どもが幼ければ幼いほどに、そのすべてを親の責任であると、当人も周囲も受けとめがちです。

「もっと親として自分がしっかり『介入』していれば、こんな事態にあの子は遭わずに済んだのに!」と、いつまでもどこまでも、自身の過失を我が身に課せずにはいられない、そんな苦しい心理状態に追い込まれます。そしてそのような葛藤にお互い耐えきれず、時に夫婦間で「親としての過失」を責めあう事態も起こりえます。

「お前がもっと、ちゃんと見てやっていれば・・・」や「あなたにだって、落ち度はいくらもあるでしょう!」のせめぎ合いに陥ってしまったら、もうその関係性を修復することはかなり厳しくなるでしょう。お互いの心に、癒し難い深い傷を残し、離縁に至ることも少なくありません。

また、子供の死因がいじめによる自殺であった場合にも「なぜもっと早くに気づいてやることができなかったか」の煩悶が起こります。そしてその煩悶が他者に向いた時、やはり互いを責め罵りあう辛辣な日々を送ることになってしまうのです。

本来なら同じ痛みを抱える存在として支え合いたかったのに、別の家族として生き別れる結果となってしまう。大切な人の死別を縁に、そのような結末を迎えることも現実には決して稀なケースではありません。

8つの繋がりのうちの、残る「過去」「自然」「思想」「故人」「未来」については、次回に取り上げます。

 

 

<追記>

 

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前川 美幸(まえかわ みゆき)

前川 美幸(まえかわ みゆき)

日本グリーフ専門士協会理事。老人保健施設での介護支援専門員、訪問看護ステーションの立ち上げを経て、現在は終末期医療に従事。看護・介護の現場の両面からグリーフケアを伝えている。日総研出版『達人ケアマネ』に2017年6月から2018年6月にかけ、グリーフケアに関する連載を担当。