■死別喪失にともなう感情の変化:グリーフスパイラル

死別体験で起きる心の変化には、具体的にどのようなものがあるでしょうか?

日本グリーフ専門士協会で提唱している「グリーフのスパイラル」という心理モデルがあります。

内側にある「哀しみ」には、愛おしい、悲しい、寂しい、辛い、苦しい、悔しい、怖い、不安、心配、落胆という複雑な感情が入り混じっています。喪失体験による「哀しみ」はグリーフの心理過程のいちプロセスではありません。様々に移りかわっていく状態の根底に、常にあるものです。

この哀しみを一次感情とし、「混乱」「否認」「怒り」「抑うつ」「諦め」「転換」、そして「再生」の7つの局面が引き起こされていくのです。「哀しみ」の中にいる人は、これらの局面を段階的ではなく、行ったり来たりしながら「再生」に向かいます。私たちグリーフ専門士は、どのようなケースであっても最終的にはそのゴールに至ると信じてかかわっています。

このように、「再生」に向かう中で生じる「混乱」「否認」「怒り」「抑うつ」「諦め」「転換」は、必ずしもこの順番どおりに現れるとは限リません。いくつかの過程がスキップされることもありますし、ある局面からもとの局面へと逆戻りしたかのように感じられることも見受けられます。

ですが、表面上では後戻りしているかのように見えても、実際には少しずつ再生への過程をその人なりに歩んでいきます。

前回は死別による喪失悲嘆によって生じる心の変化のうち、「混乱」についてとりあげました。今回は「否認」について詳しく見ていきましょう。

■否認とは

「否認」とは、苦痛を避けるために事実を認めない防衛機制のひとつです。「降りかかった出来事」を受け入れられない状態であり、自分が何かに侵される不安や不快から逃れようとしている局面と言えるでしょう。

感情的に受け入れられないだけでなく、理性的にも相手の死を認められないことがあります。

災害などで行方不明のままに何年も経過した場合、おそらくはお亡くなりになっている可能性が極めて高いと判断されることがあります。それでも「あの人が死ぬはずがない、きっとどこかで生きている」と信じ、探索行動をとり続ける人も少なくありません。

「否認」の時期に周りを疑い、警戒心が強くなるのは自然なことです。如何あっても死を受け入れきれない側から見て、受け入れつつある側にいる人達は、どこか一線を画したい存在でもあります。

「否認」は辛い現実を受け入れるための「心」の間の緩衝材として働き、哀しみにくれる人を助ける局面でもあります。

<否認時に求められるケア>

1)相手の言葉を否定せずに丁寧に受け止める

わたし達の誰もが、あまりに大きなショックには絶えることができません。

死が嘘であってほしい、間違いであってほしいと思うことで、今にも崩れ落ちそうな自分自身をなんとか保とう、支えようとしているのが「否認」です。

そのため「受けとめたくない」という本人の気持ちを否定する必要はありません。故人の存在を感じることが慰めになることもあり、「亡くなったあの人が夢に出てきた」と多くの人が言われるところです。「いつも見ている気がする」「さっきすれ違ったように感じた」といった体験をする人もあります。

それが事実かどうかは別として、そうした体験が悲嘆に沈む人にとって精神的な慰めとなり、良い方向に働くこともあります。「そのように感じられる」ということを受けとめた上で、それが本人にとってどういう意味をもたらすのかを温かく見守り、否定したり改めようとしたりすることがないようにしましょう。感情的に受け入れられないだけでなく、理性的にも相手の死を認められない状態ですから、「批判的な態度を見せるのは当たり前」という前提のもと、相手の言葉を否定せず、丁寧に受け止めることが大切です。

2)泣くことも、泣かないことも許される

涙が苦悩を押し流し、泣くことにより心理的カタルシスがもたらされるのは誰もが知るところです。人間にとって「泣く」ことは、心身の緊張を和らげるもっとも効果的な方法でもあります。死別悲嘆を抱えている人が抱いている感情のままを、素直に出せる環境を整え、何が出てきても動じない態度を貫きましょう。時に故人に対する恨みやつらみが噴出することもありますが、それもまた「許す」ために必要な作業であり、死を受け入れるために必要なワンステップでもあります。

故人が生きている感覚がまだどこか残っている「否認」の状態だからこそ、まだ言えるのが、様々な故人へのクレームです。当人が吐き出したいようであれば、その全てを受け入れ、決して否定しないこと。そして当然ながら、ネガティブな情報ほどなおさら守秘義務を厳守することが大切です。

どの心理過程においても、故人との関係における複雑な感情が噴出することがありますが、怒りや憎悪の感情を抑圧し続けることは、グリーフの状態を長引かせることになります。どんな形であれ、どんな感情であれ、気持ちをしっかり出すことで感情は収縮していきます。

悲しかったり、悔しかったり、やりきれない想いが吐露できることはとても大切です。そしてそれ以外の、怒りや憎しみ、腹立たしさ、持って行き場のないあらゆる感情もまた、出せるものならば出せる場があった方が、早く楽になることができます。ですが、それらが出せるにもまた、多くのエネルギーを要することも事実です。

ゆっくりと気持ちが落ち着ける環境にあり、守秘義務が厳重に守られ、かつすべてを受けとめてくれる誰かがきちんと側にあり続けてくれる。そうした場が万全に整った上で、本人に気持ちを打ち明ける準備や覚悟ができて初めて、様々な想いを口にすることができます。

もし本人が心情的に話すような気持ちにとてもなれなかったり、落ち着いて語ることが困難な場であったり、あるいは話を聞く側との信頼関係がまだ根強く確立していなかったりすると、ありのままの想いを吐き出すことはとてもできません。

あまりのショックで感情が鈍磨し、自分がどんな気持ちでいるかすら、わからなくなってしまうことも、死別の直後には往々にしてありえます。そんな時に「泣いていいんですよ」「涙が哀しみを流してくれますよ」と頻繁に声をかけられ、泣けない自分を責められているようで辛かった、という方がありました。

泣かずにいることを強要するべきではないのと同様に、泣くことを無理やり推奨するのもまた、それを受ける本人にとっては辛い仕打ちとなってしまいます。

今、感じているありのままにふるまうことが許される環境を整えることが、死別による喪失悲嘆における否認期にある人に対するケアのうち、最も大切と言えるでしょう。

ありのまま、あるがままの自分で心の内を自由に吐露することが許されると同様に、感情を吐き出すことを強要されないことも、とても大切です。

死別による離別は、あまりにも大きなショックであるがゆえに、自分自身の感情がわからなくなる「感情鈍麻」と言われるような状態に陥ることがあります。どのような反応が出てもおかしくない、反応が乏しいことも当然あり得ることを十分踏まえておきましょう。

3)故人を生きている人と同じように扱う

死別への不安や恐れ、悲嘆は、実際にお亡くなりになる前から始まっています(予期悲嘆)

「まさか死ぬだなんてどうしても信じられない」という思いを抱えたまま、必死に看病を続け、心の準備もままならず突然、別離はおとずれます。余命宣告を受けてからお亡くなりになるまでの間がどれだけあろうとも、看取る立場に立ってみれば、やはり突然の別れが容赦なくある日突然引き起こることには変わりがないでしょう。

すでに死去されてからどれだけの時間が過ぎていても、未だその死が完全には受け入れられていないことは往往にしてあります。愛する人の死を受け入れる覚悟を持つことは、どのような状況下においても本当に大変なことです。

お亡くなりになるその瞬間までは、如何あってもなんとかこの世に生かし続けたいという戦いの連続。死別の局面を迎えて初めて「その死が現実問題としてのしかかってきた」とおっしゃたご遺族がありましたが、まさにその通りだと実感します。

死亡時刻を医師から告げられた途端に、即「故人」となり「遺族」と呼ばれてしまう現実とは裏腹に、私たちの心はそうスンナリと転換できるものではありません。

「まさか亡くなるだなんて思えない」ままに、「とても死んだとは思えない」がその先ずっと続くことも十分にあり得るのです。

お亡くなりになられた年齢やお亡くなりになられてからの期間に関わらず、故人に対しどのような想いを抱いているかに細心の配慮を図りながら、丁寧に接していくことを心がけたいものですね。

<追記>

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前川 美幸(まえかわ みゆき)

前川 美幸(まえかわ みゆき)

日本グリーフ専門士協会理事。老人保健施設での介護支援専門員、訪問看護ステーションの立ち上げを経て、現在は終末期医療に従事。看護・介護の現場の両面からグリーフケアを伝えている。日総研出版『達人ケアマネ』に2017年6月から2018年6月にかけ、グリーフケアに関する連載を担当。