喪失悲嘆は家族・遺族以外にも影響を与える
 

死別による喪失悲嘆は、家族や遺族だけに起こるものではありません。病院や施設であるならば、長らくその方と関わってきた介護・看護職、同じ屋根の下で共に過ごしてきた患者さんや利用者さん達にとっても、大きな心理的影響があります。看取りの体験がまだあまりない職員にとっては、一人の方の死別によって様々に広がる喪失悲嘆に触れることは大きな精神的負担になり得ます。悩みやストレスをひとり抱え込んでしまうことも少なくありません。どのように対応すべきかわからない中で、医療・介護現場においてどのような悲嘆支援が求められるのでしょうか。

親類縁者・友人以外のつながりに誰が伝えるか?

経験が豊富で臨機応変な対応が可能な対人援助職であれば、死別の事実をどう伝えるか?においてもTPOに合わせ的確な判断ができるでしょう。しかしケースによっては亡くなられたことを誰にどこまで伝えたら良いものか、ベスト選択がとっさに見出せず苦慮することがあり得ます。

医療機関においては余命がある程度予測できる場合は特に「どこまで延命措置をとるか?」の意思決定を事前にとりまとめられます。その際、キーパーソンとなる家族によってはたいてい、もしもの際には親類縁者のうち誰にどこまで伝えるか?についてもある程度は準備をしていることが多いでしょう。ですが、本人と家族が疎遠であったり、本人が家族に自身の交友関係について明らかにしていない場合などは、誰にどこまで死別の事実を伝えるか?について、遺族となった家族が困る場合も少なくありません。

故人にとっての親類縁者や知人友人等へは、キーパーソンを中心とする家族がその責任を担い、葬儀等の予定も合わせて連絡をされます。病院や施設側にとって死別に関しての伝達で悩みを抱えるのは、治療や介護を受けるようになってから、あるいは入所や入院をきっかけとして始まった対人関係全般です。たとえば通所や短期入所等でお互いに親しくなった利用者さん同士では、一方が体調不良で入院された場合、「あの人最近来なくなったけれどどうしたの?」と何度も尋ねられるということがあります。本来はどこでどのように過ごされているか、という現状把握も個人情報の範疇と言えます。ですから本人またはキーパーソンの許可なしに、現時点での状況をお伝えすることは不適切でしょう。

個人情報の保護を厳守しつつ悔いのないお別れを

特に在宅支援復帰を目指す病院や施設においては、誰かがお亡くなりになることにより周囲の方々が動揺される可能性があります。診断名が同じであったり、年齢や立場が近い方がお亡くなりになると「自分も長くはないかも知れない」と不安を感じ、精神的に平静ではいられなくなる方も中にはあるからです。

お亡くなりになられた場所がその施設や病院内であった場合は、他の患者さんや利用者さんに知られないよう裏口からひっそりお見送りするのが、日本においては長きにわたり慣例となってきました。ところが最近では「終の住処」として入所しているホームや施設によってはそのままその施設内で葬儀を行う所も増えています。その方にとって人生の最期を過ごした所で、お亡くなりなる直前まで親しく過ごしてきた他の入居者や職員に見守り見送られる人も、今後は少なくないでしょう。

「死別は伏せるもの」が当たり前であったのが今新たに「オープンに見送る」という在り方も出現し、その施設ごとに対応の差別化がみられます。一方、通所系のサービスでは、共に通う中で親しくなられた方同士、互いに安否を気遣うつながりが築かれることがあります。健康状態が悪化したために利用を停止し、その後にお亡くなりになられた場合、死別の事実をお伝えすべきかどうかを悩む担当者も多いようです。本来、診断名や死因は守秘義務が発生する重要な個人情報に該当するからです。とは言え、医療現場ではそれらはどこか「共有して当然の情報」のように扱われてしまう面も多々あります。

最近は個人の情報の共有や公開に対し慎重であるべきという姿勢も浸透しつつあり、「誰が誰に対しどこまで死別の事実を伝える権利と責任があるのか?について悩みます」という質問を、特に介護施設でのグリーフケア研修でケアマネジャーの方から受ける機会が増えました。

ケアマネジャーが伝達を担う際に留意したいこと

一般的に医療保険の下で患者さんがお亡くなりになられた場合は、親類縁者や友人知人への死別の事実の伝達は、患者さんにとってのキーパーソンである方がその重責を担われることが多いでしょう。たいていは、お亡くなりになられた患者さんとの関係性がとくに近い方がキーパーソンとなります。よってご本人の状況によってはあまりに混乱するが故に、事務的な作業が一切不可能になることも珍しくありません。その際はキーパーソン以外の家族や友人のうちどなたかが代行して、あるいは手分けして連絡されることもあります。

さらに主に介護保険サービスを利用する療養環境下でお亡くなりになられた場合、その方が利用されていた各サービス担当者への連絡は、ケアマネジャーが担うことが多いようです。本来は「死去の事実」もある意味、とても重要な個人情報のひとつでもあり、人によっては「部外者には極力知られたくない」という要望をお持ちの場合もあります。ひとりひとりの状況に応じ、死別の事実を誰にどこまで伝えるか?における決断を下すことは、とても大変な役割です。本人および本人に関わる身近な人達の関係性や心情などの細かな背景を丁寧に拾い上げ、的確に整理し即座に情報伝達していく重責を担えるのは、介護保険上ではケアマネジャーであることがほとんどでしょう。

できれば予後に関わる様々なことを意思決定する場面で、死別の事実の情報伝達についてもあらかじめ役割分担を話しあえればベストです。しかし実際にはそこまで手が回らないことがほとんどでしょう。そのため、ご利用者様が在宅でお亡くなりになられた場合、ケアマネジャーが各サービス提供者へその利用停止と共に死別の事実を伝達する機会が多くなります。いつどのタイミングで誰にどこまで伝えるか、まんべんなく把握した上でスムーズに伝達する采配もふるうのは至難の業です。そこで死別の事実をどう伝えるか?に関するいくつかの留意点を、経験豊かなケアマネジャーの皆さんにお伺いし、以下にまとめてみました。

(2020年4月、新型コロナウイルスによる感染拡大を受け、文章を訂正しました)

①参列が義務と感じられない伝え方を工夫し、今の環境でできる最善策を考える。

お亡くなりになられた、という旨の連絡を受けたサービス担当者は、「自分達には葬儀や通夜に参列しなければならないのではないか」という義務や負担を感じることがあります。しかし昨今は、新型コロナウイルスの感染拡大リスクが世界的な問題となっています。そのため集団が密に集まる場への出入りを医療介護従事者が控える動きが日本全国で広がる中で、利用者さんの通夜や葬儀には不参加を決定づける事業所が多いと思います。

実際に葬儀の場で感染が発生した事実をふまえ、故人と対面してのお別れのご挨拶を医療・介護従事者が自粛する流れは今後ますます一般的になっていくと考えられます。さらに団塊の世代が高齢者となり、介護サービスを受ける方もお亡くなりになられる方も増えていく中で、これまでのように<できる範囲で一人一人の方の弔問をサービス担当者が行うことは実質、難しくなることと予測されます。

とはいえ、たとえ肉体的には参列できなくても「心の中だけでも手を合わせたい」という気持ちを持つ方も少なくないため、葬儀や通夜の日時については、ご家族の了承の元に故人と関わりのあったサービス担当者等にはお知らせしておいた方がより悔いの残らないお別れにつながるでしょう。

②亡くなった背景や経緯に関しての個人情報の保護と守秘義務の徹底を再確認する。

こうした伝達の多くは現状では電話かメールで行われることが多いと思われますが、口頭であっても文面であっても、故人を偲ぶ気持ちをお互いに尊重しながら意思の疎通を図る必要があります。とくに亡くなられた直接の原因については、たとえそれが病気によるものであっても極めて重大な個人情報です。ですから、ご本人の許可なく勝手に公開するものでは決してありません。

とは言え医療・介護業界では、心身の健康の維持拡大がケアサービスに関わる全員にとっての共通ミッションでもあるために、診断名や病名の共有がごく自然に当たり前のこととして行われています。ですが本来はそうした情報の共有も、本人の了承を得なければ許されないのが「個人情報の保護」や「守秘義務」を常に念頭におくべき私達にとっての本来のルールであるはずです。

ましてなんらかの事故や、自死による死別であった場合にはより厳格にかつ厳重に、その死因については守秘義務が徹底されるべきです。とりわえ自死については日本社会において特に、根強い偏見があります。自死で命を落とされた方本人にはもちろん、その家族や周囲にも「どうして気づけなかったのか?」「なぜ側にいて助けられなかったのか?」といった無理解や非難の目が向けられることも残念ながら少なくありません。 

自死はご本人としてのどうにもならない背景があればこその結果であり、そうなるに至る過程には誰にも知り得ぬ重大な何か、避けようのない決定要因があったことでしょう。遺族となられたご家族がその行為に対し様々な葛藤を抱えることは当然ながら起こり得る反応ですが、それ以外の部外者が何らかのジャッジを加えることは本来、とても無配慮だということをお互いに何度も確認していく必要があります。自死以外においても、なんらかの事故や事件等が原因または背景にあって亡くなられた場合も、周囲の人の注目を過度に浴びてしまうことがあり、繊細な配慮と対応が必要です。

「長く患ってはきたが本人も周囲も納得した上での最期だった」「天寿に近い享年を生き抜いた末に老衰で亡くなった」といったコースが理想の死別であるように、看取る側は錯覚しがちです。そしてこちらが良しとする以外の死別において、何がどう不足していたか?を問題点として着目してしまいます。そのような<不足を見出し問題化する>アプローチをお亡くなりになられた方に対して発揮してしまうことは、本来は失礼かつ不遜で態度であるとも言えます。

もしその方が現に目の前にいらっしゃったらそのような伝達の仕方をするだろうか?その方の生き方や人生そのものを評価するような言動がとれるだろうか?ということを常に念頭におくことがとても大切だと感じます。その配慮は生きている方を相手にするのと同様に、あるいはそれ以上に繊細であるべきでしょう。

医療も介護も原則として、その方自身が生存されている条件下で提供可能なサービスです。だからこそお亡くなりになられた方に対して、どのような経緯や背景を抱えお亡くなりになられたか、についての情報の伝達・共有は特に『個人情報と守秘義務の徹底を心がける』ことが重要です。

もしそれらの伝達において何か不手際や不適切な言動があったとしても、それに対する抗議を故人自身がすることは、不可能です。ご遺族となられたご家族がその気持ちを正確に代弁することもできません。だからこそ最後の関わりとなる「死別の事実の伝達」には丁寧かつ誠実な対応が求められます。

③かかわりの深い担当者がいた際には感謝や労いの言葉をかける

体調悪化等により通所系のサービスが停止になった方が、そのまま利用復帰することなくお亡くなりになるケースは、介護保険上かなり多くあると実感します。また急速な状態の悪化があった場合は、お亡くなりになられた事実を関わっていたサービス担当者全員に伝達することはかなり難しい面があります。

故人と長らく関わってきたスタッフは、心を込めてケアにあたってきたご利用者がお亡くなりになられたことで人間として大きなショックを感じます。その最期を見届けることができなかった場合はとくに、ご利用者やそのご家族からの感謝や労いの言葉を受けとることが、そうした喪失悲嘆に対する心のケアになります。

お亡くなりになられる瞬間までは関わることが少ない通所系のサービス担当者は特に、「あんなに元気だったのに突然……」というショックと共に喪失悲嘆を味わうことが多くなりがちです。また職務経験が浅く感受性が強いスタッフの場合はそうしたケースが重なることで気分が抑うつ的に傾いてしまうことがあります。

ご家族の中には「お世話になった**さんにはぜひ、感謝を伝えてもらいたい」と名指しでスタッフの名前をあげられる場合もあります。ご利用者さん本人やご家族が特に親しみを感じていたサービス担当者がある場合は、そうした声を耳にしたスタッフがその担当者に対し、伝言してあげることが心のケアにつながります。

故人やご家族からのメッセージが具体的には特に聞きとれなかった場合にも、そのケアサービスを依頼する立場であったケアマネジャーから、故人と関わりがあったサービス担当者へ感謝と労いの言葉をかけてもらいたいところです。

④他のご利用者への伝達には配慮を要する

親しくしていた方が亡くなったと知り、動揺される利用者は少なくありません。そのため誰にどんな風にどこまで伝えるか?については様々な配慮が必要です。基本的にはスタッフ間のみ、必要とされる方だけにお伝えするのが大事です。ご利用者への伝達に関しては、①ご家族が明確に希望されていて、②相手の方が死別の事実をきちんと受け入れそれによる心身の悪影響がない場合のみに限る、といった慎重さが求められるでしょう。

また通所サービスを利用していた期間が共に長い場合などは、利用者間での繋がりが特に深まっていることがあります。「前に一緒に通っていたあの人、そういえばどうなったの?」「具合悪くなって入院したって聞いたけど、今はどこでどんな風に過ごされているの?」等、その安否を気遣って尋ねてこられるケースもよく見られます。

そうした場合に「きちんと良くなるまで専門病院でみてもらっているみたいですよ」等伝えていた場合、いつまでもそうした安否確認が繰り返されることがあります。そもそも具体的な病状や病院名等を勝手に公開することは守秘義務に反するため、「詳しいことは私達もよく聞いていなくて…」等、やんわりと事実確認を避けて対応することも少なくなくありません。

とはいえ、利用者間で噂が広がり、どこからともなく死去の事実を知り得たことで、断定的に職員に同意を求めて来られる方も時にあります。そのような状況下であっても、こちらから死去の事実や死因についての情報の伝達は「個人情報の保護」と「守秘義務」を守る上では避けることが望ましいです。

「いつどこで誰からそれを知ったのか?」を落ち着いた態度で確認し、その情報提供がご遺族からであった場合にも「そのようにお聞きになったのですね」と受けとめるに留め、こちらから相手が知り得ない情報についてさらなる伝達提供をしないことが重要です。

「仲が良かった方が亡くなった」というニュースはどんな立場であってもとても辛いものです。とくに年代が近い、様々な共通点が多い場合などは、唯一無二の理解者を失ったように感じ、絶望や孤独に打ちのめされます。「私ももう死んでしまった方が楽かも知れない」「私にも早くお迎えがきてほしい」等の言動が目立つようになったり、あるいは口数が減る、目に見えて活動的でなくなる、等の精神的な落ち込みが見られることもあります。

「正確な情報をどこまで伝えるか?」よりも「悲しみや不安なお気持ち」に寄り添うことがとても重要です。その方自身が今どんな風に感じていらっしゃるか?を丁寧に聴取することで、悲しみや不安は和らぐことでしょう。

また死別の事実を伝えることが精神的落ち込みを誘発すると予測される場合には、完全にその事実を伏せることを貫き通す対応をとる場合があります。その際には「もし故人の安否について問われた際にどのように答えるか?」を関わるスタッフ全員で共有する必要があります。同じ疾患を抱えているなどの背景があり死別の事実を伏せたい場合は、カンファレンス等で対応を確認しましょう。

「葬儀や通夜には参列しない」が今後は基本スタンスとなる可能性がある

これまでは患者さんや利用者さんがお亡くなりになられた場合、病院や施設によっては、代表者や関わりの深かったスタッフがその法人の代表として、葬儀や通夜に参列することも少なくありませんでした。それは、利用者の方にとっても、スタッフの悲嘆の支援においても大事なことだと思われます。

しかし、この先の日本は、団塊の世代が後期高齢者となり死去される方が激増する時代を迎え、お亡くなりになられる利用者さんや患者さんが、これまで以上に何人も続くケースが増えていきます。そんな中、医療・介護従事者の葬儀等への参列・参加については、今後ますます意見交換がなされるでしょう。昨今の感染症の状況を考えると、参列ができなくなるケースは増えていくと思われます。また医療・介護従事者だけでなく高齢者間も、葬儀や通夜等への参列がはばかられる傾向がますます増えていきます。

だからこそそれぞれの立場でどのように、大切な方との死別を受け止め、心のケアを継続するかがとても重要になっていきます。そのためにはたとえ短い時間であっても、サービスを担当したスタッフ間で様々な気持ちや心の揺れを共有する場が必要だと思います。

とはいえ、実際には忙しい業務で時間が取れないと言う現状があるでしょう。しかし、時間がとれないことを理由に、スタッフ間の喪失悲嘆ケアがまったく実施されないままだと、心優しく繊細なスタッフが徐々に働き続ける意欲を失い、だんだんと活気がなくなり気がついた時には退職の意思を固めていることも少なくありません。そしてそのようなスタッフが一人減っただけでも職場の雰囲気は激変します。それによって全体的に士気が下がるばかりでなく、ケアの質や接遇面においても低下が見られることもあります。またそうした変化がさらにより殺伐としたムードを招き、退職者が絶え間なく続いてしまうことも残念ながらあり得ます。

ですからなるべく時間や手間がかからない工夫を凝らしながら、支援するスタッフ側の喪失悲嘆ケアを継続的に行っていくことが大切です。①他のカンファレンス等が開催される際に付随してデスカンファレンスを行う②ご家族からのお言葉を受けとった際にスタッフ間で共有の時間をとる、等、わかちあいの時間を捻出することはスタッフを守るためにもこれまで以上に意識していく必要があるでしょう。

私達日本グリーフ専門士協会では、職場ではなかなか難しいという方のために、援助職の方のためのわかちあいの会を対面およびWeb上にて開催しています。ご縁のある方とオンラインのグリーフサロンでお目にかかる機会がありましたら幸いです。

編集後記

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前川 美幸(まえかわ みゆき)
日本グリーフ専門士協会理事。病棟看護師、介護支援専門員、訪問看護ステーションの立ち上げを経て、オンラインおよび対面でのグリーフケアサロン、個人カウンセリング、グループセッション、病院・介護施設研修に従事。日総研出版『達人ケアマネ』に2017年6月から1年間『ケアマネジャーが知っておきたい家族ケア・グリーフケア』の連載記事を担当。